「通り抜けたい」vs「たくさん収納したい」——クローゼットで夫婦が止まる瞬間
「ウォークスルーにしたら朝の動線がラクになるよ」
「いや、そんなの通路になるだけでしょ。収納が減るじゃん」
こんなやり取り、ショールームや間取りの打ち合わせで経験ありませんか?
ウォークインクローゼット(WIC)か、ウォークスルークローゼット(WTC)か。
SNSや住宅雑誌で見かけるおしゃれな「通り抜け動線」に惹かれる方と、
「とにかく服が全部入ること」を重視する方。
この二つの価値観がぶつかると、間取りの打ち合わせが止まってしまいます。
私はLIXILのショールームでコーディネーターをしていた頃、
まさにこの話題で何十組ものご夫婦が悩む姿を見てきました。
この記事では、すれ違いが起きる本当の理由と、
プロが現場で使っていた「問いかけ」をお伝えします。
よくある夫婦のすれ違いパターン
パターン①「おしゃれ動線 vs 現実の荷物量」
Instagramで素敵なウォークスルークローゼットを見つけた奥さまが、
「寝室→クローゼット→洗面所」の回遊動線を提案。
一方、ご主人は「今のアパートでもクローゼットがパンパンなのに、
通路を作ったら服が入らなくなる」と反対。
実際にこう言われたことがあります。
「妻はSNSの写真みたいにしたいみたいだけど、うちは服も荷物も多いんです。
見た目より中身でしょ」
奥さまは動線の快適さを想像していて、ご主人は今ある荷物の置き場所を心配している。
見ている時間軸が「未来の暮らし」と「今の現実」でズレているんです。
私がそのご夫婦に「今のクローゼットの写真、見せてもらえますか?」とお願いしたところ、
確かにぎっしり。
でもよく見ると、半分は2年以上着ていない服でした。
「収納が足りない」のではなく「手放す基準がない」だけだったんです。
パターン②「朝の時間差問題」
共働き夫婦に多いのがこのパターンです。
「朝6時に起きて着替えたいけど、WICだと寝室を通らないと入れない。妻を起こしたくない」
「通り抜けにすれば廊下からも入れるから便利だよね」
でも相手は「扉が2か所あるとエアコンの効きが悪くなりそう」と心配。
片方は生活リズムの問題を解決したくて、もう片方は住み心地を守りたい。
どちらの気持ちも正しいからこそ、話がまとまりにくいんです。
実際にあったケースでは、ご主人が「廊下側にも扉をつけたい」と希望したのに対し、
奥さまは「扉が増えると壁が減って、姿見を置けなくなる」と心配されていました。
クローゼットひとつで、生活リズム・空調・インテリアと、論点が3つも4つも出てくるんです。
なぜこのすれ違いが起きるのか
クローゼットの形を選ぶとき、実は夫婦それぞれが違う「不安」を抱えています。
ウォークスルーを推す方は、「毎日の家事や身支度をラクにしたい」
という効率への願望が強い傾向があります。
ウォークインを推す方は、「収納が足りなくなったらどうしよう」
という不足への不安が根っこにあります。
どちらも家族の暮らしを良くしたいという同じ気持ちから出発しています。
でも「良い暮らし」の定義が、動線の快適さなのか収納の安心感なのかで分かれてしまうんです。
さらに厄介なのが、「通路に使う面積」の感覚差です。
ウォークスルーにするには最低60cm幅の通路が必要で、
その分だけ棚やハンガーのスペースが減ります。
「たった60cmでしょ」と思う方と、「60cmあればハンガーパイプ1本分じゃん」と思う方。
この数字の受け取り方が、そのまま夫婦の温度差になります。
もうひとつ、ショールームで何度も見たのが「展示の影響」です。
住宅展示場のクローゼットは広くておしゃれに見せています。
でもあれは50坪以上の家の間取り。
30〜35坪の現実的な家で同じことをしようとすると、リビングや寝室を削ることになります。
「あの家みたいにしたい」という憧れと、「うちは坪数が違う」という現実。
ここを整理しないまま打ち合わせに入ると、話がかみ合わなくなるんです。
コーディネーターが使っていた「解決の問いかけ」
私がショールームで実際に使っていた問いかけがあります。
「朝起きてから家を出るまでの動きを、お二人それぞれ教えてもらえますか?」
これを聞くと、夫婦で全然違う朝のルーティンが見えてきます。
あるご夫婦の場合、ご主人は「起きる→洗面所→クローゼットで着替え→キッチン」。
奥さまは「起きる→キッチンでお弁当→洗面所→クローゼット→玄関」。
こうして書き出すと、「クローゼットから洗面所に抜けたいのは夫の方だ」と気づいたりします。
逆に奥さまは「別に通り抜けなくてもいい。それより棚を増やしたい」と本音が出ることも。
面白いのは、最初「ウォークスルーがいい!」と言っていた方が、
動線を書き出した結果「ウォークインのほうが合ってた」と気づくケースもあること。
頭の中だけで考えると、なんとなく「通り抜けたほうが便利そう」と思いがちです。
でも自分の朝の動きを客観的に見ると、
実はクローゼットと洗面所を行き来しない生活パターンだった、なんてこともよくあるんです。
もう一つ、よく使った問いかけはこれです。
「今のクローゼット、あふれているものは何ですか?服ですか、それ以外ですか?」
意外と「服」ではなく、季節家電やスーツケースがあふれている場合があります。
それなら別の場所に納戸を設ければ、クローゼット自体はコンパクトでもOK。
通り抜け動線を実現する余地が生まれるんです。
あるご夫婦は、この問いかけで「スーツケース3つと扇風機2台」が出てきました。
それを階段下の収納に移す案にしたところ、クローゼットは2畳で十分という結論に。
「じゃあ通り抜けにしてもいけるね」と、ご夫婦の表情がパッと明るくなったのを覚えています。
間取りの正解は「WICかWTCか」の二択ではありません。
「何がどこに収まれば、朝の自分がラクになるか」を具体的にすることで、答えが見えてきます。
WICとWTC、結局どっちが多い?現場のリアル
私の体感ですが、
ショールームに来られるご夫婦の7割はウォークインクローゼットを選んでいました。
理由はシンプルで、「確実に収納量が確保できるから」です。
でも残りの3割、ウォークスルーを選んだご夫婦は満足度がとても高かったんです。
なぜかというと、「動線を考え抜いて決めた」というプロセスがあるから。
なんとなくWICにした方より、「うちにはWTCが合う」と納得して選んだ方のほうが、
住んでからの後悔が少ない印象でした。
つまり大事なのは、WICかWTCかという「型」ではなく、
「なぜそれを選んだか」という理由の部分。
夫婦で話し合って出した答えなら、どちらを選んでも後悔しにくいんです。
ちなみに、「WICにしたけど通り抜けも欲しくなった」というご相談を、
住み始めてから受けることもありました。
逆に「WTCにしたけど、もっと棚が欲しかった」という声も。
どちらにも「あっちにすればよかった」のリスクはあります。
だからこそ、「なんとなく」ではなく「うちはこういう理由でこっちにした」
と言える状態にしておくことが大切なんです。
後悔しないクローゼット選び5つのポイント
- 持ち物の「全体量」を把握する——服だけでなく、布団・季節家電・スーツケースも含めて
数えましょう。クローゼットに入れるべきものと、別収納に回すものを分けるだけで必要な広さが変わります。紙に書き出すと、夫婦の「多い・少ない」の感覚のズレも見えてきます。 - 朝の動線を「歩数」で比べる——WICとWTCそれぞれの間取りで、起床から外出までの歩数を数えてみてください。数字にすると感覚の議論が事実の議論に変わります。私はショールームでお客さまに実際に歩いてもらっていました。「あ、意外と変わらないね」と気づく方も多かったです。
- 通路幅は「着替え動作」で考える——ただ通り抜けるだけなら60cmで足りますが、中で着替えるなら80cm以上欲しいところ。ショールームやモデルハウスでメジャーを使い、実際に腕を広げてみるのが一番確実です。
- 扉の有無を先に決める——WTCでもロールスクリーンや引き戸をつければ、エアコン効率や目隠しの問題は解決できます。「扉なし=丸見え」と思い込まないことが大事です。最近はインテリアに馴染むおしゃれなロールスクリーンも増えているので、選択肢は意外と広いですよ。
- 5年後の荷物をイメージする——子どもが生まれる予定なら、ベビーグッズや成長に伴う荷物増加も想定しましょう。逆に、子どもが巣立つ時期が近いご夫婦なら、今後荷物は減っていく可能性もあります。今の荷物量だけで判断すると、将来「やっぱり足りない」「広すぎて持て余す」となりがちです。
まとめ
ウォークインかウォークスルーかで夫婦が揉めるのは、「収納の安心」と「動線の快適さ」
という、どちらも大切な価値観がぶつかるからです。
クローゼット選びは、間取り全体に影響する大事な決断です。
だからこそ焦らず、夫婦でじっくり話し合ってほしいと思います。
大事なポイントは3つ。
①朝のルーティンを書き出して、動線の必要性を「見える化」すること。
②あふれている荷物の正体を確認し、クローゼットに本当に入れるべきものを絞ること。
③通路幅や扉の工夫で、WICとWTCの「いいとこ取り」ができないか検討すること。
「どっちが正解?」ではなく、「私たちの朝に合うのはどっち?」。
そう問いかけを変えるだけで、夫婦の会話は前に進みますよ。
このブログ「家づくり夫婦ラボ」では、元ショールームコーディネーターの経験をもとに、
夫婦の家づくりがもっとスムーズになるヒントをお届けしています。
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